リスクヘッジの論文トピック選び Part3 です (Part 1, Part 2)。 2020年5月11日に JAMA Network Open からザワザワした論文が出たが、そのタイトルなんと Effect of Viewing Disney Movies During Chemotherapy on Self-Reported Quality of Life Among Patients With Gynecologic Cancer – A Randomized Clinical Trial つまり抗がん剤治療中にディズニー映画を観ることがQoLに影響を及ぼすかというRCT。 かなりリッチな雰囲気がこの時点で充満しているのだが まず解釈のためのポイントを押さえておくと 著者はディズニーの回し者では無い(Disney とのaffiliation やfundingは無い) フルの原著論文 BMJ Christmas Issue のようなネタ特集では無い なかなかツッコミどころがあると思うので、僕が考えるハイリスクなプロジェクトの実践編としてレビューしてみる。 ——————————- もし僕が腫瘍内科医でRCTの経験が豊富で研究費が5億円あってウォルト・ディズニーを崇拝していたとしても このプロジェクトはリスクが高すぎるので手を出さないと思う。 リスクが高いと思う理由は無数にあるのだが、 1. 介入選択の動機が弱い。 まず真っ先に気になったのが、なぜこのヘンテコな介入に行き着いたのか? ということで、理由が書かれているはずのBackgroundを読んだのだがディズニー映画を選んだことに関しては、 ウォルトディズニーの思想が素晴らしかったからContinue reading “ディズニー映画RCTから考えるリスクヘッジ”
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佐藤芹香氏は本当に心臓外科医か
文春の記事にどこまで真面目にツッコんでいいのか分からないのだが、一応おかしかった点を挙げていく。 ネタ記事はこちら。2006年のインタビューを元にしているとのこと。 米国のコーネル大学を21歳で卒業。 当人曰く、飛び級しまくって15歳で6年一貫プログラムに入学したらしい。 あり得ないことではないが、おそらくコーネルに本名で照会してもらわないと否定しきれないのでスルー。一応文春の記事では照会してもらって存在していない、ということだったらしいが本名ではない可能性をフェアに考慮したい。 そして6年プログラムの数自体が少ないし1991年前後にコーネルにこの制度があったかは不明。2020年現在、米国のコーネル大に一貫プログラムは無い。 だた、コーネル大・カタール校には2014年から6年プログラムが存在している様子。 医学部卒後の経歴 米国で1990-2000年代に心臓外科医になるにはまずACGMEという機構に認定された5年の一般外科レジデンシーを卒業し、その後に2−3年の胸部心臓外科フェローシップに入らなければいけなかったはずだがこのステップをどの施設で行ったのか等の経歴が全く記載されていない。 そして米国医学部卒の人間がこのレジデンシー・フェローシップの外科的トレーニングを行わないで心臓外科医として手術を行える環境は闇医者でもない限りない。 海外医学部卒の先生がACGME外のフェローシップを経てアメリカで心臓外科医として活躍されることは希にある。 更に、記事でもコーネルの心臓外科チーフが言っているように、外国人女性心臓外科医という当時では今以上に激レアな人種をコーネルの人間が覚えていないわけがない。 プローブを使って行うバイパス手術 これは意味不明。 胸骨切開無しで行う底侵襲の方法は1996年に症例報告がLancetに出て Calafiore AM and Angelini GD. Left anterior smallthoracotomy (LAST) for coronary artery revascularisa-tion. Lancet. 1996; 347: 263–4. 以来2006年頃には確かにそれなりに普及していたと思うのだが「プローブを使う」という言い方は心臓外科医としてかなりおかしい。 百歩譲って完全胸腔鏡視下のことだったとしてもその成功例が報告されたのはかなり後の話。 多いときで年間300例 これが一番決め手だと思うのだが、コーネル大があるニューヨーク州で心臓手術を行う場合、バイパス手術と弁膜症手術の成績が外科医ごとに実名付きで州のDepartment of Healthのサイトに公表される。 以下は2004-2006年のデータで、コーネル大附属病院に日本人らしい名前の心臓外科医は載っていない。 症例数の低すぎる外科医はOthersというカテゴリに入れられていたのが気になったので10年分遡ったが日本人名はなかった。そして施設内でも年間300例を超えているのは二人しかいない。 アメリカで手術を何本かすると何千万 1990年代後期にCABGに対するCMSの支払いが劇的に減ったことも手伝って、数例で何千万円という収入になることはまずあり得ない。 うちの上の人から聞いた話では3枝バイパス手術一例で外科医の収入になるのは1000ドル(約10万円)いくかいかないかだそうだ。コスト含めて病院に保険から支払われる金額は数千万単位で合っているのだが、出費がバカにならないので外科医の収入に繋がるのはホンの一部。 アメリカでは“本名”が一番大事な個人情報 まぁ。。スルー。本名を公表できない医者に自分の心臓を触られたくはない。 まとめ 色々おかしい。
コーネル大 ワンシンク元教授の論文不正・辞任から考える研究チームの体質
コーネル大の大物研究者が6本のJAMA Networkの論文撤回後に辞任。不適切な統計処理やデータ操作を助長した研究チームの体質について考える。 2018年9月19日付けでJAMAに6本の論文撤回についての通知が掲載された。撤回の理由は論文不正。いずれもコーネル大学の栄養学研究の第一人者であるブライアン・ワンシンク元教授(Brian Wansink PhD) のチームからJAMA Network 内のジャーナルに掲載されたもので、その後ワンシンクはコーネル大学を辞任している。 何があったのか? 不正発覚の経緯の詳細は「研究倫理(ネカト)」に日本語で記載されているのでそちらをご覧頂きたいが、まとめると · 2017年にオランダの大学院生がワンシンクの自身の研究チームに関するブログを読みp-hacking を暗喩していたワンシンクの研究手法に懸念を抱く · オランダのチームからワンシンクの複数の論文でデータ操作や不適切な統計処理が行われていたことを示唆するpreprint が発表される · 2017年4月にコーネル大学が内部調査の開始を発表 · 2018年5月に、ワンシンクのJAMAに2005年に掲載された論文に関しての’Expression of Concern‘ が JAMAに掲載される · 2018年9月にJAMA Network から、科学的妥当性が保証できないため6本の論文を撤回するという通知が掲載される。調査を受けてワンシンクはコーネル大学教授を辞任 という流れだ。 浮上していたのはt検定の結果が間違っている、等と単純なものから複数のアンケート調査で全く違う母体に行ったアンケートの回答者数が全て770だった、というデータ操作・捏造を示唆するものまで幅広い。 火付け役となったワンシンクのブログには何が書かれていたのか。 ’The Grad Student Who Never Said “No”’と題されているこの記事には彼の研究室で働いていた研究員達についての対比が書かれている。焦点が当てられているのは無償で彼のチームに来ていたトルコの客員研究員で、ブログでは彼女がいかに生産的で、ワンシンクの取ってくるデータを頑張って解析し論文を書きまくって帰っていった、ということが書かれている。ブログの主旨は彼女と他の彼のチームのポスドクの対比で、他のポスドク達はワンシンクのプロジェクトのオファーにノーと言い続けた結果、まったく論文が書けなかった、というようなものだった。 実際にオランダのチームに問題視されたのはp-hacking が行われていたことを示唆する ”There’s got to be something here we can salvage because it’s a cool (rich &Continue reading “コーネル大 ワンシンク元教授の論文不正・辞任から考える研究チームの体質”