レビュー論文の査読は原著論文と違ってメソッドや結果で評価できないので、切り口のオリジナリティーや構成、書かれている情報の正確さや引用文献の解釈のクオリティーなどが評価対象になって本来なら時間がかかるものが多い(?)印象を個人的に持っていたのだが、
今日のレビュー論文の査読依頼は30分で終わってしまった。
最初は記事にする内容ではないと思ったのだが考えるほどに不思議な査読だった気がして、僕自身発見があったので書いてみることにした。
これはただの偏見だろ、というご指摘があるかもしれないが僕自身、他の査読者は普通のコメントをつけているのに、結構なこだわりポイントで一人のレビュアーを激昂させてきついコメントがついたことは何度かあるので、
賛同いただけるかどうかは別として実際のレビューで起こり得ることかもれしれない、というスタンスで読んでいただければと思う。
また、査読論文をネタに使わせていただくのは、詳細はもちろん伏せた上での査読の対価、ということで通したいと思う。
さて本題。
レビュー論文の執筆は、エディターからその分野のエキスパートだと認知された上で依頼がくる場合は高確率で掲載されるのでいいが、
自発的に書いたものをジャーナルに売り込む場合って結構なリスクがあると思う。
レビュー論文は原著論文と違って自分で新しい知識を生成するわけではないので、ジャーナル側からの需要(依頼)がない場合はコンセプトの組み立て方や議論の切り口が斬新なものでない限り買い手を見つけるのは割と難しい気がする。
今回査読した論文は著者側が売り込んできたタイプのもの。
結構な問題点があったので数点あげていく。
一つ目はかなり特異なケースだと思うが…
図が違法
僕は最初に論文の流れを大雑把に掴んだ上で2回目のレビューで詳細を詰めることが多いのだが、まずその一度目のスキャンの時点で気づいたのが
論文中の複数の図が、業者のパンフレットの写真の脚注を落としただけのコピペ。転載許可に関する記述も無い。
このレベルのものはそう無いと思うのだが、かなりのスピードで著者に対するリスペクトを失ってしまった。
内容も際立った印象はなかったのでこの時点でエディターに対するdecision のrecommendationは大方終了した。
ある程度のスペルミスやフォーマットのエラーは誰にでもあるし全然許容範囲だと思うのだが、よく図の違法転載の様なあからさまなものを送ろうと思ったなと。
もし著者がメソッドを組み立てて解析を行なって新しい知識を生成しようと努力した原著論文でこれが行われていたら、もちろん違法なのは変わりないし指摘はするのだが心証は少し違ったのではとも考えた。
まずその様な図を載せる必要って原著論文ではあまり無いはず。そしてそこがこのレビュー査読の問題の本質の様な気もする。
他人が生み出した原著論文の上に成り立つレビュー論文なので、僕が思う「レビュー論文の1番肝心な部分」が疎かにされていたのが気になったのだと思う。
査読的なポイントとしては、この発見後の査読はひたすら酷評モードになってしまったということ。評価はフェアにやろうと努めたのだが普通なら見過ごしている様な穴にも結構コメントをつけてしまったと思う。
これは上の人から聞く話によると割と普通(?)のことらしく、どこかでキレてしまうとその後のコメントが厳しくなりがちだとか。
この査読が手短に終わったのは評価の方向がかなり早い段階で決まってしまったところが大きかったと思う。
切り口がゆるゆる
内容に関しては、論文の切り口が不明瞭だったのがネックだったと思う。
ロボット手術に関するものだったのだが、カバーしているトピックが広すぎてかなりフワッとした毒にも薬にもならないようなレビュー論文になってしまった印象。
ちょっと検索をかけただけで10本以上は似た様なものが見つかった。
これがレビュー論文の執筆が難しいと思う理由の一つだと思う。ただ単に調べれば出てくる知識をまとめて総論を書くのは恐らく割と簡単で、何か差異化できる特徴が必要だったと思うのだがそれがなかった。
引用が弱い
ロボット領域って質の高いエビデンスを生成するのが難しく、そのせいで細かいアプローチの違いに関してはエキスパートの意見によるところが臨床場面では多いと思うのだが、
「X大学のY先生はこう言っていました」というのは確かに学会などでよく聞く情報ではあったのだが、レビュー論文に引用文献無しで書いていたのは事実確認のしようが無いので引っかかった。
また、外科系論文でよく使われる ’Our approach has been…’ の様な、我々はこうしています、という情報の記載なのだが
ハイボリュームで手術成績も論文になっていて権威として認識されているチームからの自分たちのテクニックに関する発信はとても有用だと思うのだが、キツい言い方になってしまうが、手術成績もわからない素性の知れていないグループからデータの提示もなしにこの様なことを書かれても評価のしようがなかったのでそこも引っかかった。
まとめ
この査読が手短に終わってしまったのは、あまり深い内容に突っ込まずとも評価できる表面的な最低ラインを越えていなかったことが大きかったと思う。
そして著者側から売り込むレビュー論文にはそこそこのリスクがあると思う。
データ採取や解析などのステップを踏まなくて良い分簡単に書けてしまいそうな印象があるかも知れないが、他の面でその論文の価値を補わなければいけないので、掲載への難易度に関してはそれ相応の対価があると思う。