論文の生死を分ける3セクション

Twitter でお世話になっている先生の症例報告を拝読する機会があった。

先生の論文はすでにとても読みやすい英語で書かれていて、マイナーな校正やコメントの提案をさせて頂いただけだったが「印象がガラリと」変わった、というレスポンスをいただいた。

僕も今働いているボスの校正が入る時にこう思うことがよくあり、論文のフレームの仕方、のようなセールス的なテクについて話す機会があったので書きたい。

論文を生かすか殺すかはこの3箇所にかかっていると言っても過言ではないと思う(とボスに言われた)。面白いことにボスの校正が入る度合いがこの3箇所にちゃんと集中しているから本当なのだろうなと思う。

  • 抄録:言わずもがなレビュアー含め、読者はまずここを読むのでは。1文字あたりの価値が論文中で一番高いところだと思う。まさに一等地
  • Introduction/Backgroundの最後の段落: ”In this study, we aimed to identify/test/characterize/ X Y and Z.” というような文。抄録 + この文章で読者はこの論文の最重要目的が何なのか、読み終わったらどう言ったリサーチクエスチョンの答えが得られているのか、が明確になっている印象。
  • Discussionsの最初の段落:ここでは論文の総まとめがハイレベル(定量的なディテールは無し)に述べられており、ここを上の2点の後に読めば研究がどんな動機でどういうリサーチクエスチョンを答えるために行われ、どのようなtake home message が得られたのか、がわかる。

もちろん論文の内容は全て大事なので3点というと語弊があるかも知れないが、デザインや手法、得られた結果の内容が素晴らしい場合でもこの3点が上手く書かれていないと読み手にインパクトが伝わらず、論文が死んでしまう、という感じの議論だと思っていただけたらと思う。

逆に、同じメソッドや結果でも、解釈の仕方と序章でのフレームの作り方でsignificance が爆上がりするケースがあると思う。

僕がただな〜んとなく良さそうなデータを解析した結果をボスに見せたら、ものの5分でめちゃくちゃ面白いフレームに落とし込んでくれたことがあって感動した。なので実際大事だと思うし、このセンスが一流研究者たる所以ではとも思った次第。

実質的にこの3点が重要なのは以下のような理由:

抄録 (Abstract)

まず抄録を読めば、デスクリジェクト(エディターの判定のみでレビュアーの査読にすらまわらない)になるかが大体わかると思う。某エディターは半分くらいここで落とす、言っていた。

文字通り論文の生死を決める。

デスクリジェクトがないジャーナルも多いので一概には言い切れないが抄録が一番大事なのは明確だと思う。

Backgroundの最終段落

Background ではこの論文を読み進めれば今まで知られていなかったこんなことが分かりますよ、とレビュアーと読者を口説く。

ここが整備されていないとその先に進めない。

というか「このペーパーはこういう理由で超重要!」というメッセージが伝わらないとメソッドや結果を解釈しようがないので査読がここで大方終了、ということもあると思う。

Backgroundの最終段落にはこの研究が何を目的として行われたのかが書かれているので手法の評価や結果を解釈するコンテキストを作り上げるのに超重要。

Discussions の最初の段落

Discussionの最初の段落では、Background の最後の段落に書かれていたAimsを遂行できたのかをまとめる。

なのでこの3点を読めば研究がどう言った重要な目的で行われてどのような結果が得られたのかがわかる。

この段落は僕は「70 wordsでこの研究結果を売るなら」というプレスリリースのような感覚で書くようにしている。2−3個の重要な結果に絞って、かなりドヤ感を出して書く。

もちろん誇張すると論文のレベルを下げてしまうし査読者の心証も悪くすると思うので要注意だが、「我々の研究結果すごい、マジ最高!」というテンションでいいと思う。

余談になるが、このテンションで考察の最初の段落が書ける論文は楽しいしテンポよく進んできた良い研究なことが多い気がする。逆にここを書くのに苦労する論文はメッセージが今一つ不明瞭で複数のジャーナルを巡る羽目になっている印象。

まとめ

どんなに強力なデータを使い洗練されたメソッドで革新的な結果が生み出された研究でも受取手に伝わらなければ意味がない

読み手とのコミュニケーションで最も重要なのが抄録、序章の最後の段落、そして考察の最初の段落ではないかと思う。

特にイントロはセンスが光ると思うので好きな研究者の論文をこの点に注目して読んでみると面白いかも知れない。

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