論文の金銭的価値って気にならないだろうか。
結構な研究費が費やされているのに出来上がる臨床論文にあまり医療的・科学的価値がないケースを(自分の論文含めて)見続けてきたので、僕はすごく気になる。
また、臨床に同じ時間を費やせばかなりの収益を上げられるはずの医者が数十から百時間かけて書く論文には相当な価値があるはずなのだが…
下記に詳細を書くが、大雑把な結論から言うと:
- 最低ラインが1本10~30万円
- インパクトファクター1点につき20万円くらい
ではないかと。
シビアに金銭的価値を詰めるのは難しい、というか昇進による昇給や論文による施設の宣伝効果などの下流にある付加価値のようなものを考慮するのは不可能なので間接的に推定したもの。
ネタ程度で読み捨てていただければと思う。
1USドル=100円で計算する。
ケース1:オープンアクセスの出版費用から推定

「著者が出版費用を負担する」というオープンアクセスジャーナルの出版モデルをご存知だろうか。
出版費で稼ぐためにゴミ論文を採択しまくるハゲタカジャーナルが悪名高いが、
JAMA Network Open, Nature Communications, PLOS Medicine 等しっかりした査読プロセスがあり科学的に価値のあるものだと判断された論文を出版するプラットフォームも多数存在する。
JAMA Network Open にはまだインパクトファクターが付いていないがNature Comm とPLOS Med はいずれも10点超え。
著者への負担はジャーナルによって振れ幅があるのだが
2020年4月現在で高いものだとNature Communications の$5380 (54万円)。JAMA Network Open とPLOS Medicineが両方$3000(30万円) だがほとんどは10-30万円の価格帯に収まっている様。
注目したいのは、「誰か」が出版費用以上の価値がその論文にあると思うからオープンアクセスのビジネスが存在する、というところ。
つまりNature Communications に載っている論文は「誰か」が1本54万円以上の価値があると思ったからお金を払って出版した事になるのではないだろうか。
この「誰か」は、研究費の出どころである施設だったり大学だったりするのだろうが自腹を切って払ったという猛者も僕の周りにはいる。
そして出版費用はジャーナルのインパクトと相関する。
下がオープンアクセスジャーナルのインパクトと出版費用をプロットしたもので、右肩上がりなのがわかると思う。

同じPLOSファミリーでも、PLOS Medicine が30万円なのに対して、インパクトが落ちるPLOS One が13万円ちょっとなのもそういったところだろう。
ただ、出版費用から推測できるのは最低ラインであって、100万円で買ったデータを統計屋に30万円で解析してもらったものを論文にして30万円の出版費用を払ってオープンアクセスジャーナルに載せる、という様なケースはこの方法ではかなり過小評価されてしまう。
だが最低ラインとしての目安にはなるのではないだろうか。
仮に、「ジャーナルに掲載された論文のオーサーシップを丸々買い取れる」というサービスがあったとすればその買値がその論文の金銭的価値、ということになるかと思う。
推定1:論文のインパクトによるが、大体1本10万〜30万円以上の価値がある
ケース2:中国の大学が研究者に払った報償から推定

これは推定というよりモロにその論文の金銭的価値を現していると思う。
少し前にニュースになった「中国の大学の90%は論文を出した研究者に褒賞を出すシステムがある」というもの。
スキャンダラスなものでCell に論文を通した研究者に対してSichuan Agricultural University が200万ドル(2億円)を支払ったというニュースもあったが、後日2億円は研究グラントだったという訂正があった。
Nature の記事によると中国の浙江农林大学ではインパクトファクター10以上のジャーナルに通した場合、インパクトファクターx 1.5 x $1400という価格設定で研究者に褒賞が与えられていた。つまり10点のジャーナルに論文が通れば210万円ほどが支払われ、1点あたり21万円の計算。
推定2:(インパクトファクター10点以上なら)1点につき21万円
ケース3:リサーチアシスタントの給料から推定

学生を教える教員、臨床も兼ねている医者、または次のステップへの投資として薄給で働いているポスドク等と違い、リサーチアシスタントは研究を行うためのみに雇われることが多いのでリサーチアシスタントの給料から生産される論文の価値を推定できないだろうか。
かなり雑な推論になってしまうのだが、うちで雇っているリサーチアシスタントの年収が400万円。
彼が年に大体4本、インパクトファクター2から4程のジャーナルに通しているのと他のタスクを手伝っているので仮にそれを1本とカウントすれば400万円/5本なので1本80万円くらいの価値があるという事になるだろうか。
福利厚生、実際何本どこに通るか、また他の論文への貢献度など様々な要素があるのでかなり大雑把な目安にしかならないが、ケース2で見たインパクトファクター1点21万と近しい数字になるだろうか。
推定3:インパクトファクター2〜4点の論文で1本80万円
まとめ
雑な考察になってしまったが、論文1本の金銭的価値は最低ラインが1本10〜30万円でインパクトファクター1点につき20万円くらいの価値があるのではないかという結論。
可もなく不可もなく、という印象。
ただ、論文出版と金銭報酬を直接結びつけてしまうのはNature の記事にも書かれていた様に、科学的なプロセスを蔑ろにして手っ取り早く成果を出す事や論文不正を助長する可能性があるので危険なシステムではないだろうか。
そして金銭的価値が社会的・医療的な価値を反映するかは…謎。